カメラマンに成れる率とスーパーマリオブラザーズ

 以前、スタッフのスタジオ在籍期間と、その後カメラマン(写真家・フォトグラファー)に成れている率の関係を調べてみたことがあります。その差は歴然でした。入社から『1年未満』で退社された方々と、『2年以上在籍』された方々。それぞれのカメラマンをやってる率は、『1年未満』よりも『2年以上在籍』した方々のほうが15倍も高かったのです。(※)

 

 一般的に、撮影スタジオのアシスタントの仕事は大変だと言われています。元スタッフだった千田くんも、スタジオスタッフの頃はいつも「もう、大変です。」と言いながら汗をかきかき、息を切らしながら仕事をしていました。その千田くんも今は、フォトグラファーのアシスタントとして、「スタジオマンより大変です。」と言いながら日々がんばっています。

 

 千田くんが、いづれカメラマンとして独立した時、彼は間違いなく言うことでしょう。「カメラマンって、ホント大変です。アシスタントのほうが全然ラクでした。」と。

 

 以下は、ソフトバンクの創業者であり社長である孫正義さんの弟、孫泰蔵さんが自分の起業した会社の経営で悩み苦しみ死をも考えていたころ、兄の正義さんから言われた話だそうです。つくづく思うのですが、起業家も写真家も、“家”がつく職業は単なる仕事を超え、人生を賭けた生き方が問われる職業だと思うのです。

 


『泰蔵、辛いやろ、苦しいやろ。ばってん、お前は今いい経験をしよるとぞ。その苦労や経験は実になって将来必ず役に立つ。人生はスーパーマリオみたいなものなんだ。最初に1面を始めたときを考えてみい。ザコキャラのノコノコ1匹にすぐやられるし、雲に乗ることもできん。だんだん習熟してくるとボスキャラのクッパにたどり着けるようになる。

 

だけど、本当にクッパを倒せるまでに、何度も死ぬことになる。そこで挫折しそうになるのをこらえて挑戦を続けて、やっとクッパをやっつけてピーチ姫を助けることができる。次の2面はまた一段と難しくなっとる。そこで何度も何度も失敗するけど、努力と訓練でスキルを上げてクリアしてゆく。

 

いまのお前は1面で苦労している段階や。それでいかにも俺に助けてもらいたそうな顔をしているけど、プライドがあって言い出せんのだろう。最初に言っとくけど、俺は助けてやらん。お前の今の困難はおれも経験したし、助けてやるのは簡単やぞ。

 

だけど、ここで助けたらお前のためにならん。「そこの土管から3面にワープできるぞ」と教えるのは簡単やけど、いまのお前の実力では3面にいったら瞬殺やぞ。だから1面、2面で「必ず経験しておくべき失敗をして」、そのうえでクリアしていって、やっと3面のボスキャラに対抗できる実力が身に付く。

 

ここで俺がお前を助けて3面に行かせてやったら、そこで致命的な失敗をする。だから、ここは逃げちゃいかん。お前の勝負どころやぞ。』

 

【出典:「僕たちがスタートアップした理由」よりMOVIDA JAPAN 株式会社 Seed Acceleration Div. フォレスト出版】

 


 のちに弟の孫泰蔵さんが、自分の人生のどん底だったこの時期を振り返ったとき、「スーパーマリオ」の話を持ち出して励ましてくれた兄の話があったからこそ、苦境を乗り越えることができたのだそうです。

 

 冒頭の話に戻りますが、僕はスタジオに長く居続けるべきだと言いたいのではありません。皆さんに勘違いしてほしくはないのですが、長く居ることを目的にスタジオで働くようではダメなのです。それでは、いわゆる『手段の目的化』という本末転倒な状態になってしまうのですが、この話はいずれまた。

 

 人には乗り越えていかなければならないステージがあります。普通の人生を送る方なら、べつにこだわらなくても良いことかもしれません。でも、写真家(カメラマン)や料理家などの感性系職人を志す者なら、一つ一つのステージを乗り越えてこそだと思うのです。1面も2面も3面も、すべてはより上を目指すためにあります。ピーチ姫を救い出してこそ、千田くんはヒーローになれるのです。がんばれ!ちーたん!!

 

 

※:スタジオ後、カメラマンのアシスタントを経てカメラマンとなる方もいるので、対象の在籍期間は2001年から2010年としました。また、『カメラマンをやっている人』の定義は、“自称”ではなく、“その収入で生活ができている人”としました。