フォロワー数は求めるものではなく、後からついてくるもの

 先日、あるスタッフが言っていました。「最近の写真家は、インスタ(instagram)のフォロワー数でギャラが決まるって聞きました。フォロワー数を増やすには、色々なやり方があるそうです。自分もそのやり方を勉強したいと思います。」その言葉を聞いて、僕は耳の後ろに付いている「何か言わずにいられないスイッチ」を押しました。

 

 インスタから火がついて、仕事として撮影の依頼を受けるようになる方がいます。それはいいんです。僕が気になるのは、その人に習ってフォロワーを増やそうと考える人のことです。そもそも、インスタで売れるようになった方々も、最初はただ自分がいいと感じるままに写真を撮り、加工をしていただけのはずです。で、自然にそれを周りの友人に見せ、喜んでもらえることが自分自身嬉しかった。そこでSNSに載せてもっと多くの人に見てもらいたいと思うようになったのは当然です。

 

 自分がイイと感じるものを撮る(創る)ことで、人の共感を得られ、喜ばれる。その人にとって撮る目的は、喜ばれることによって実感できる自分の存在への重要感だと思います。『インスタ』は、その意味で自分の活動を広めるための手段でしかありません。

 

 いつの時代も、新しく出てきて注目されるアイデアや仕組みはあります。それを知って二番煎じを狙う人は昔からいます。でも、その多くは『手段の目的化』というワナに陥りがちです。

 

 「大企業病」という言葉があります。どんな大企業も最初は小さな会社からスタートしました。一般的に、小さな会社は働いて頂ける人を集めることにすら苦労します。それでも、創業者や従業員の情熱のベクトルが一つとなった企業は発展し、やがて大企業と目される企業規模となります。すると、「大企業だからこその安心感」を求めて多くの方が求人に来るようになります。その結果、競争原理により学業優秀な方も入社してくるようになります。でも、元々「安心感」目的に入ってきた人達ですから、小さな会社だった頃の従業員が持っていた情熱とは異質の勤労観を持った人が多数を占めるようになります。と、同時に小さな会社だった頃のように創業者が間近にはおらず、昔の人達がそうであったようにはなりにくい環境へと変わっていきます。やがてそれは組織力を下げ、顧客の心を遠ざけ、業績不振になっていくという企業の病です。

 

 これは、大企業に限らず、どこでも起こりがちな問題です。例えば、一昔前に非常に多くの写真家を輩出していた学校がありました。最近はその当時に比べて、写真家がそれほど出ていないそうです。あの学校に行けば何とかなると考える生徒が多数を占め、学校側もそのような人達の意識改革に成功していないからだと思います。

 

僕のいる外苑スタジオも常にその危険性を抱えています。大企業病なんて言ったら怒られそうな小企業です。それでも、「多くのフォトグラファーを輩出している外苑スタジオに入り、その環境の中で自分も刺激を受けたい。」という理由でスタジオに入社してくる方には、その他力本願的な意識を変えて頂かなくてはいけないのです。(来春、入社予定の皆さん、よろしくね!)

 

冒頭の「インスタのフォロワー数を増やしたい」と言っていたスタッフの話に戻ります。今、彼女がエネルギーと時間を費やすべきことは、「インスタ」という手段の勉強ではなく、自分がイイと感じられる写真の追求という本来の目的そのものなのです。

 

耳の後ろの「何か言わずにいられないスイッチ」解除しまーす。