不思議くん

 知り合いのフォトグラファーさんから、アシスタントさんのことで頭を抱えていると聞きました。折り入っての相談って感じでもなかったようですし、その日はそのまま話すタイミングを逸してしまったので、僕の思うことをここに書きます。

 

 

 皆さんの周りにもいませんか? 仕事において、マジメか不真面目かと問えば、マジメ。ただ、気が利くとか、先を読んだ行動とか、その人にそれ以上を期待すると残念な結果に終わる人。

 

 決して能力がないというワケではないのだけど、「なぜ、もう一歩踏み出してくれないの!」って言いたくなってしまう超省エネルギー型。

 

 その人の先輩や、上司、師匠は、一見マジメなその人に期待してしまう分、結果的にはその人のエネルギーの無さにガッカリしてしまいます。それでも、本人的には唯一の正しい道を進んでいるつもりなので、上手くいかなくても自分を疑ってみることはありません。それがまた、歯がゆい。

 

 仮に「不思議くん」と呼んでみますが、この不思議くん、働くことへの捉え方の違いがそもそもの問題だと思います。

 

 

 

 ところで、働くって二通りの考え方があります。

 

 一つは、バイトを通して学生の頃から慣れ親しんできた捉え方。自分の時間と労働をクライアント(雇用主)に提供する代わりに、その代価をもらう働き方です。

 

 もう一つは、求められるサービスや物のクオリティー、結果などに責任を持つ捉え方。多くの場合その成果によって、その後の自分の評価や収入が変わっていく働き方です。フォトグラファーなんてまさしくこれです。

 

 どちらがいいという論点で語るつもりはありません。スッキリとどちらかに分けられるわけでもないですし、考え方や生き方は、人それぞれの自由ですから。

 

 ただし、不思議くんは将来、自分の仕事に期待してもらって収入を得る後者を目指しているはずなのに、極端に前者的な価値観のままでいます。

 

 

 

 この不思議くん、与えられた仕事はマジメにやります。その仕事に間違いがあり、やり直しを命じられれば素直にそれに従います。

 

 ただ、自分から仕事を探すようなことはありません。自分の間違いを自らやり直すなんてこともありません。上から「やり直して」と命じられてはじめて、次の仕事として黙々とこなします。

 

 不思議くんにとって『仕事』とは、「自分の時間と労働」を提供する代わりに「貨幣」を得ることを目的とした等価交換行動です。そんな不思議くんがキャリアを積む必要性を感じたときから勘違いが始まります。

 

 不思議くんの場合、目的としていた「貨幣」が「キャリア」に変わっただけなので、『仕事』へのスタンスは何も変わりません。不思議くんにとっては「キャリア」を得るために「自分の時間と労働」を提供することが『仕事』であって、それ以上でもそれ以外でもないのです。

 

 

 ご存知の通り、我々の仕事ってどれだけ責任を取れるかということが全てです。先輩や上司や師匠やクライアントが、誰かに大切な仕事を任せるのは、その人が信頼できるからです。

 

 新入社員なら、小さな仕事を一つずつ「自分はこの仕事なら責任もって出来る」と認めてもらえるようになることが、やがてより大きな仕事を任されるためのスタートとなります。

 

 ただ、この責任を果たしていくには、もう一歩、あとひと頑張りといったこだわりや工夫が必要な場面を乗り越えていかなければいけません。等価交換行動的な価値観では、ただ単に割に合わない行為となってしまうものです。

 

 皆さんの後輩や部下、アシスタントにこの不思議くんがいたら、この考え方的問題とあるべき姿を事あるごとに言い聞かせてみるのはいかがでしょう。僕の経験では、時間はかかりますが何度も言い続けるしか他に良い方法はありません。

 

 責任を取るから信頼され、信頼を得るからより責任の大きな仕事が来るのです。どんな仕事も、その延長線上にあることに変わりはありません。皆さんの近くの不思議くんが、いつかこのことを理解してくれる日が来ることを願っています。