見た目とファッション

 僕が高校生の頃、同じクラスの男子数人が、毎朝授業の始まる前に屋上などで隠れて喫煙するのを日課にしていました。僕はそういった連中とは一線を画し、朝は教室でノンビリするのを常とする生徒でした。

 

 

 しかし、ある日、事件は起きたのです。

 

 あろうことか、喫煙していた連中が風紀の先生に見つかり、猛ダッシュで教室に戻ってきたのです。それから数秒遅れて教室に入ってきた風紀の先生は、クラスの全員を席に着かせて言いました。

 

 「今、屋上でタバコを吸っていたヤツらがこの教室に逃げ込むのを見た。オレはタバコを吸わないから、臭いを嗅げばタバコを吸っていたヤツがすぐにわかる。」

 

 そう言って、席に着く一人ひとりの顔の前に自分の顔を近づけ、クンクンやりだしました。

 

 僕は超焦りました。

 

 毎朝、学校に来る途中にある自販機で缶ビールを買って、教室で飲むのを日課にしていたのです。その日はバイト代が入ったばかりだったので奮発して500mlを買っていました。

 

 

 そんな経緯もあって、風紀の先生を苦手としていた僕ですが、今この歳になって風紀の先生みたいなことを言います。

 

 

 

 

 

 顔つき、体つき、服装や髪形を含む外見、いわゆる“見た目”は、この業界においても大切であることは間違いありません。ファッション系フォトグラファーの方のTシャツ・短パン・ビーサン姿は、ラフさがカッコいいです。

 

 でも、スタジオスタッフを含めアシスタントという立場の方が、自分の外見にこだわるあまり仕事のクオリティーを落としたり、知らずに人を遠ざけてしまったりしているのって、もったいないなーと思うのです。

 

  • まだ自分に自信を持てないから相手を直視できない気持ちはわかります。でも、コミュニケーションが重要な現場で、アイコンタクトの妨げとなるほどの邪魔な前髪ってもったいないです。
  • 気になってしまうのだから仕方ないかもしれません。でも、ついつい髪型が気になって髪に手をやってしまうこと、その手間や時間がもったいないです。
  • 自分のヒゲがどちらのヒゲか、わかりにくいとは思います。でも、オシャレなヒゲはOKですが、貫禄出すためのヒゲは、自分の立場を考えてからのほうがよいかもしれません。
  • フットワークの良さを求められる現場では、ローカットのスニーカーを超える靴はそうそうありません。こだわりのミリタリーブーツによって俊敏性を失われるのはもったいないです。
  • タトゥーや腰パンって、世代により印象が極端に変わります。20代的には「別にいいんじゃね?」なことでも、40代50代には「生理的にダメ」ってこともあります。当人が40代50代を切り捨てちゃうことで自分に来たかもしれないチャンスを失うのはもったいないです。

 

 

 

 

 

 僕のいるスタジオのみんなも、もう充分大人です。今さら「風紀の乱れ」なんて子供じみた注意をまともに聞いてくれはしません。

 

 でも、これらの問題を本人が乗り越えない限り、現場で得られるチャンスから自分がスルーされていることに気付かないまま、時間だけが過ぎていってしまいます。やがて、「自分はやれるだけやったけど、何も芽が出なかった」という思いに至ってしまったら、それこそ悲劇です。

 

 僕に出来ることは、本人の心が成長し無駄な飾りがそぎ落とされ洗練されていくことを願いつつ、ことあるごとに、サラッと、チクチク、時にはガツンと、手を変え品を変え気付きを促すことくらいです。

 

 そもそも、風紀の先生じゃありませんし。

 

 お後はよろしいようですかね?

 

 スタッフ、読んでるかな?

 

 まあ、別に読んでくれてなくてもいいんだけどね…

 

 お後、いいよね…

 

 頼むよ、R。