アジなまねする高級魚

 

 先日、釣り歴何十年のカメラマンに誘われ、釣り船に乗って沖に出るアジ釣りに行ってきました。「誰でも簡単にたくさん釣れる」とのことだったので、まったく初心者の僕でもなんとかなるだろうと高をくくっておりました。

 

 早朝、湘南にある有名なヨットハーバー近くの港から釣り客を乗せて出航。それから帰港するまでの約8時間、この辺りの海を知り尽くした船長が、魚群探知機見ながら漁場ポイントに連れて行ってくれるので、釣り客は言われたタイミングで釣り糸を垂らせば良いだけのとても贅沢な釣りでした。

 

 ただ、僕に限れば素人丸出し。何もわかっていないので、自分に落ち度があるのか無いのかもわからないまま僕発のトラブル続出です。

 

 

 3mm角くらいの小さなエサをこれまた小さな針に付けるのに苦戦。

 

 仕掛け(針とかオモリとか)を海に入れようとしても、いつの間にか糸が竿に絡んでいて、落ちていかずに何度もブラブラ。

 

 遠くに針を落としたくって、仕掛けを勢いよく投げたら、竿が壊れた。投げてはいけなかったものらしい。

 

 熟練者の方々が“お祭り”状態の糸や仕掛けを解きつつ、竿を持つ僕に「緩めて!」とか「巻いて!」と指示してきたけど、何のことだかすぐにはわからずまごついていて、熟練者をイライラさせていた。

 

 潮の流れが速くなり、熟練者も含めてみんながお祭りになる中、僕の糸は船のスクリューに130m絡みつき、船を止めた。(海の男達は手慣れたもので、簡単に外してくれましたが)

 

 

 一緒に行った僕の釣りの師匠(カメラマン)は、針にエサを付けることに手間取る僕を見て、冗談っぽく「どん臭いな~(笑)」と言います。ま、確かにどん臭い。

 

 釣り客が20人以上も乗る釣り船では、何かトラブルの度に釣り客のサポート係として船乗りのおじさんが助けにきてくれます。でも、僕が何度も呼ぶので、常に僕のソバに張り付いて一挙手一投足見てて(見張って)くれるようになりました。

 

 なんか、自分は足手まといの役立たずでミジメだな~なんて気持ちが一瞬頭をよぎりましたが、次々と釣れる釣りは楽しく、そんなことはすぐに忘れて釣りに夢中になっていました。

 

 ただ、ず~っと昔にもこんな感覚を味わった気がして、頭の片隅でそれが何だったのか釣りをしながら思い出していました。で、わかりました。

 

 それは、僕が新人スタジオマンだった時です。初めてスタジオに入ったものの、何をどうすればいいのかまったくわからない僕は、先輩に怒られ、カメラマンさんやそのアシスタントさんからは「使えないヤツ」って目で見られる、まったく足手まといのミジメな存在。あの時と同じ感覚です。

 

 と、いうことは、、、、、

 

 

 針にエサを付けるのと一緒。最初はダメでも練習すれば出来るようになることはたくさんあります。

 

 仕掛けがブラブラしていたのと同じ。実際にやってみて、失敗してみないと覚えられないこともいっぱいあります。

 

 竿を壊してしまったのと同じ。知らなかったものは仕方がないんだから、落ち込む必要はありません。だいたい、最初に教えてくれないヤツが悪いんだとでも思っておけばいいです。

 

 どの業界だって、どんな仕事だって、初心者がまごつくのは当たり前です。そんな自分に自らプレッシャーをかけて上達していく人もいれば、周りからプレッシャーをかけられて滞りなく出来るようになっていく人もいます。

 

 

 後で、聞いたことですが、その日に乗った船は、元々釣り客を10人までしか乗せないから、周りに気兼ねなく釣りを楽しむことができるということを謳い文句にしていたそうです。でも、どんな事情があったのか、同じ船に20人乗せるようになりました。(この日は22人)

 

 そりゃ、釣り客同士の間隔が狭くなる分、海の中で糸の絡み合ってしまう確率は増えるってもんです。“お祭り”は僕のせいではなかったのです。

 

 

 自分の思う通りに上手くいかないことを明るく笑い飛ばせるなら、それに越したことはありません。でも、新しく始めることが、自分にとって大事なことであればあるほど、ナイーブになりやすい人もいると思います。

 

 あんまり自意識過剰になる必要はありません。新人に大切なことは、失敗しないことではないのですから。

 

 大切な気構えは、失敗や不具合が起きて初めて気付く改善点を修正すればするほど、自分が役に立てる人になっていくということです。「失敗は成功のもと」って、そうゆうことだと思います。

 

 ちなみに、この日の僕の釣果は、アジ22尾。それと、僕がチンタラしていたお陰で、針にかかっていたアジに勝手にヒラメが食いつき、平目1尾。

 

 この日の釣り客22名中、唯一釣り上げられた高級魚でした。