スタジオを出るということ

 先日、スタッフの何人かと一緒に飲みに行った時のことです。お酒の席のたわいもない会話の中で、男の涙の話になりました。

 

 

 男性スタッフが順に答える中、僕が「僕は記憶にある限り泣いたことはないよ。」と言うと、一人のスタッフが不思議そうな顔をして言いました。「田辺さん、Kさんの壮行会(僕のいるスタジオでは、いわゆる送別会のことを壮行会といいます。)の時、涙流していませんでした? 両手で目をこすっていたので、あれ?泣いているのかな?って思っていたんですけど。」

 

 それはただの花粉症、またはただ単に眠かったのだと思います。それより、僕はビックリしました。このスタッフは、僕という人間がスタジオスタッフの壮行会ごときで感極まるような人だと思っている事実にです。

 

 僕がスタジオを出ていく人に対し、どうゆう想いになるか? それはもちろん、辞めて次にいく当人次第です。でも、泣くなんてことは断じてありません。

 

 満を持して、次もしっかり手堅く決めた上でスタジオを出ていく人なら、僕は「次でも頑張ってね。」と思います。

 

 ただ、ある程度の時間が経ち、周りの同期スタッフも次を考えだしているからという理由で、その時点で自分が持っている最良の選択肢に乗っかっていく人なら、僕は「本当にそれで大丈夫か?スタジオと同じように何とな~く時間が過ぎていくような受身なスタンスのままじゃ、次は上手くいかないと思うよ~。」と心配になります。

 

 前々から憧れていたフォトグラファーのところに面接に行っても、その後なしのつぶてだったのに、その方に就いていたアシスタントさんが急にいなくなっちゃったからという理由で、「お前、すぐにスタジオ辞めろ。明日からオレのところに来るなら、お前を採ってやってもいいぞ。」と言われ、今日突然辞めていく人なら、「仕方ない、その人の元でお前はバカだってことを学んで来い。」と思います。

 

 とにかくこのスタジオが嫌で、一刻も早くここではないどこかもっと素晴らしいところへ行くために出ていく人なら、「そう思い込んじゃった以上、その考えを変えるのはまず無理だから言わないよ。でも、今いる場所で周りから期待される存在になることなく、次に行って上手くいった人を僕は見たことが無いよ。この30年間。」と思います。

 

 

 このように、僕はスタジオスタッフがスタジオを辞めていくことに対し心配こそしますが、感極まることは一切ありません。

 

 

 

 

 でも、心がジワ~と温かくなることはあります。それは、スタジオを出ていった人が、その数年後にフォトグラファーとしてしっかり自立し、やっていけていることを知った時。そして、家庭を持ったと聞いた時。

 

 

 もうすぐ、スタジオでは毎年恒例のOB&OG会の季節です。11月3日は、僕が1年で一番楽しい日なのです。